十一歳の犬の元気がない。動物病院に張ってあったポスターによると、当てはまる犬種の平均寿命に近くなっている。
大型犬を人間の年齢に換算する正確な計算式は知らないが、七を掛ける昔からのやり方だと七十七歳。赤ん坊だった犬が自分の年齢を抜いて、先輩になっていく。
足をひきずるようになった。階段も下りられない。遊んでやらなければ一日中寝ている。劇作家の三谷幸喜さんが同じ種類の犬を飼っていたようで、なんでも十歳までを犬の寿命と考え、それ以降の年齢は神さまからの贈り物と思った方がよいと書いていた。どれぐらいのプレゼントがもらえるのか心配である。
よたよたと歩く犬は近所の高齢者に人気が高い。散歩の途中で、よく声を掛けてくださる。「がんばれよ」「がんばんなさいよ」−。犬は犬でそう言ってくれる人に近づいて体をすり寄せる。「あなたも」と返礼しているように見えてしかたない。
敬老の日である。現在、百歳以上の人は約八万人。統計を取り始めた一九六三年には百五十三人だった百寿はここまで増えた。犬と一緒にする気はないが、神さまの贈り物が大勢に届くようになった。
もちろん大切なのは贈り物の中身。健康で心穏やかに過ごせなければありがたみはない。そのために手を貸す世の中でありたい。「いずれはおぬしも」。七十七歳の先輩がそう言った気がする。