​​   変わった古道具を集めるのが趣味の男。ある日、古道具屋で振り子のない古い振り子時計を買った。

 しばらくは見て楽しんでいたが、動かぬ時計に飽きてきた。第一、時間が分からない。別の品に換えてもらおうとすると古道具屋の親父、「ちょうどよかった。振り子だけ手に入りましたので、これと取り換えましょう」。

 本体と振り子が一緒になって初めて時計である。ばかばかしい小咄(こばなし)だが、それを上回るばかばかしさではないか。政府は地上配備型ミサイル迎撃システム「イージス・アショア」の秋田、山口両県への配備計画を停止すると表明した。振り子のない振り子時計を売りつけられていたらしい。

 ミサイル発射後に切り離される初期加速装置(ブースター)。これが演習場の外に落下する危険が分かったそうだ。重さ約二百キロのブースターがどこへ飛んでいくか分からない。周辺住民にとっては想像しただけで恐ろしい話だろう。

 迎撃し、なおかつブースターも安全な場所に落下させて初めてシステムとして使えるが、これではやはり振り子のない時計である。

 当初の見立てでは五千億円以上。ブースター問題を改善しようとすれば、さらに数千億円がかかる。米国の商売人の言いなりだった政府もようやく、その商品の購入は「合理的ではない」と気付いたようだ。無論、気付いてよかったで済まされる話ではない。​​​​