​​   町にいたおばあさんはずっと水飴を売っていた。

   水飴が好きみんなはおばあさんのもとに寄ってくる。

   おばあさんは目尻に泣きぼくろがある。

   おばあさんの姓は「寧」だけど、決して心が穏やかだという意味ではない。

   みんなおばあさんを怖がっていた。お金を渡せば飴をいくらかもらえる。お得意先だけど、たくさんくれるわけでもない。

   おばあさんは魔法のように水飴に五味を溶け込ませる、とても魅力的だ。水飴は甘い。

   おばあさんは嫌いだけど、彼女の水飴は好きだ。

   私はお金がないので、飴が買えない。男みたいに仕事をするわけにもいかない。しょうがないから、村の何人かのいたずらっ子と相談して、明日おばあさんの飴を盗むことにした。でも、いざ盗みに走ったら捕まった。

   男の子達は速く走って、私を置いて駆け出したので、涙が流れた。「しまった、必ず怒られる」と思った、案の定おばあさんは鞭を持って現れた、冷や汗が止まらない。

   「本当にすみません」と謝ったら、「女の子なのに、どうしてこんなことをしたの?」とおばあさんに怒られた。

   でも、おばあさんが私の腕を掴んだ時、まるで時間が止まったように鞭を宙にかざした。

   「え?どうしたの」と思って、度胸を据えて彼女を見た。

   お婆さんはずっと腕の母斑を見て、「名前は?」

   この青い母斑は生まれたときからある、鞭の跡は何度もついた痕跡のようだ。占い師は「これは先代に渡る悲劇だ」と言った、そして、母は「楠」と私に名付けた。

   小声で「楠です、名前は呉楠(wu2 nan2)です」と答えた。

   語呂合わせは「无难(wu2 nan2 難題がないという意味 )」、「无男」も同じ。村の年寄りたちは「この名前のせいで、お母さんは男の子を産めない」って言った。母はもう既にこの世にいない。

   沈黙して、お婆さんは鞭をおろし、しっかり私の手を握った。

   私はすごく動揺していて、まだ涙が流れていた。この後起きたことは何も覚えてない。ただおばあさんが私に飴をくれたことだけ覚えている。彼女は「この飴、食べてみて?甘い?」と言った。

   「飴が甘すぎて…もう少し味が薄い方がいいかも…」

   「もう一度言ってみて?」

   「甘すぎます…」

   おばあさんは何とも言えない表情で立っていた。まるで私じゃなくて、他の人を見てたようだ。

     「甘すぎるか…じゃあどうしたらいいのかな…?」

   「わかりません…」

   お婆さんの目の中の希望は消えた。私は彼女が何を期待してたかは知らない。

   時間が過ぎ去っていく中で、お婆さんはあの甘すぎる飴を時々私にくれた。多分これは彼女の愛情表現だと思う。

   私が嫁入りする日、お婆さんはお金がないのに、どこからお金を集めたか知らないけど、金のブレスレットを私にくれた。最初にもらった飴のように、お婆さんは私の懐に押し込んだ。

   「そんな!受け取れないですよ!」って言ったが、彼女は「私はこの年まで結婚できなかった。このブレスレットは40年も50年も独身の私と一緒、あなたは身につけなくていいから、私が死んだらお墓に返してちょうだい?」って言った。

   隣人は私の話を聞いて不憫だと感じたようだが、私は全て分かってる。お婆さんは私を愛してる。お婆さんは振り向かずに店へ戻った。彼女は前よりずっと痩せたように感じた。

   夫は私をこの町から連れていくつもりだったが、私はなぜか少しこの町から離れたくない。

   この町のどこが良いのだろう?

   この町は私の故郷だけど、私は町のみんなに愛されていない。   

   この町は私を育んだけど、私の愛人を奪い去る。

   多分お婆さんの飴が恋しいのかな…ずっと変わらない、あの五味…

 

   数年後、夫と子供と一緒にこの町に戻った。顔見知りにはたくさん会ったけど、お婆さんには会えていない。どこにいるのだろう?

 ひとりでお婆さんの店に行った。店の中はすっからかんだ。引っ越したばかりなのだろう…

   「すみません、ここに住んでいたお婆さんは今どこにいますか?」と、隣の人に聞いた。

   「死んだよ」と冷たく答えた。「死体はすっかり臭って、2日前に川に捨てた。でも、ここに遺品を集めた箱があるよ。」

彼は木の箱を指した。

   「箱の中に何かあるかな」と、開いてみたら、ただ少しの紙幣といくつかの簪と写真一枚があった。

   写真には二人の女性が写っている。チャイナドレスを着て、顔が引き締まっているのはお婆さんだろう、泣きぼくろがあるから。

   じゃあ、右の方は誰?

   写真をひっくり返した。

   ”寧と楠”

   手が震えて、写真の額が地面に落ち、割れてしまった。

   隣の人は「あの2人は本当に気持ち悪くてさ、早く溺れ死ねば良かったのにな。」

   「どうして?」

   彼は空を見ながら、タバコを吸っていた。そのとき気づいたけど、彼もなかなかの高齢だ。

   「あの年、あいつらを殺すつもりだった。あの楠って女は村のやつらに縛り上げられて、腕にしっかり縄を括られてさ、大きな石と一緒に縛り付けて、川に投げちまったんだよ。」

   急に自分の母斑を思い出した。

   割れた額から、一枚の手紙が出てきた。

 

   「楠、わざと飴を甘く作ったのよ、あなたが戻ったら、早く私の飴が甘すぎるって怒ってね。私はそれがあなただとわかってもらいたいの。」

   「ほら、水は薄くて、塩が塩辛いように… あなたは甘いのよ。」

   「でも、今は、あなたに幸せでいて欲しい、わかるわね?」

私は疑い深い人間で、前世だとか、運命だとか、そんなものは信じない。でも、その一瞬で、あのチャイナドレスを着た女性が私に向かってきたような気がした…

   「きっと夢だよね…」私は笑った。

寧、この世界、人生の五味ははっきり言えないけど、ずっと一緒にいるよね…。

   物も、事も、人も。

原作者:郁右右右

翻译:Kyou

校正:河陆​​​​